日付:2015年7月1日(水) 〜 5日(日)
会場:埼玉県立近代美術館
たくさんのご来場をありがとうございました。
ごあいさつ
このたびはご多忙の中、小林満風展にご来場いただき、ありがとうございました。
今回は魚と鳥のそれぞれの主人公にスポットをあてた二つにシリーズ化を図り、同時に展観することができました。このことは、個展の開催が足踏み状態であっただけに、私の永年の夢が実現したという思いでいっぱいです。併せてメインテーマの鳥や魚たちとの共生を改めて見つめなおす私にとっての好機会となりました。これらの作成意図が表現できたかどうかはご高評・ご感想いただくことを待つことにします。
私が愛したモデルたち
岩魚を絵の題材として描くようになったのは、釣り好きな少年が青年になっても近くの利根川で釣りを続け、これに尾瀬等の登山(含む沢登り)が加わったため、これらが講じて渓流釣りに辿りつきました。そこで岩魚との出会いがありました。この頃の作品で自治研修所に収蔵されている私の作品で渓流釣りをする人が描かれた風景画が展示されています。水の表現により岩魚はその気配を感じさせるが、実はそこには岩魚は描かれていない。流線美、生命力、鯉を凌ぐ滝登り、渓流釣りで岩魚にすっかり虜になってしまいました。釣行の前日は、さながら恋人に会いに行く、デート前日の眠れない夜に似ていました。この思いは次に釣った岩魚を生かして持ち帰り、水槽で飼おうとする試みに変わりました。この延長戦上に息子たちを連れて行った水族館でのある出来事があったのです。魚が人を見ている構図から岩魚が空を飛ぶ発想が生まれたのです。その後、飼う岩魚の入手方法は次のように変わりました。加須の水産祭りで稚魚を購入して、また、成魚に育て上げては利根川に放流することを今でも続けています。在職中は、色んな角度から岩魚を眺めては、仕事の疲れを癒していたのです。このことは、「岩魚が空を飛んだ日」の続編を予告しているかのようでもあります。
また、私には「魚が水にしか住めないのは可哀そうだ」というひとつの思いがありました。養殖の岩魚でも地下水16℃を超えると生きて行けないと言います。この数値を見ても尚更のこと、今日の地球の気温の上昇は、天然の岩魚には温暖化が気になるところがあると思います。
以下は、夢のような話をします。
鯉が滝を登ると龍になる伝説がありますが、低温下の世界では鯉より能力が高い岩魚はスペース岩魚になり人工衛星の役目も担い、地球の温暖化を監視すると言う新しい伝説を今度唱えてみたくなります。宇宙空間が -90℃と聞いたことがあります。魚の仲間では最も水温が冷たいのが得意なのがこの岩魚だと言います。地球上の動物の中では宇宙でも生きて行ける最も可能性が高いのが岩魚であると考えるひとりです。このことが「岩魚が空を飛んだ日」の作品群の基調になっているのです。
次にモデルとしてのアホウドリとの出会いは、動物学者の長谷川博氏がアホウドリの保護研究で山階芳麿賞の受賞記念講演を聴講したのがきっかけでした。先生の著書も読み進みアホウドリのことを知れば知るほどその魅力にひかれ、興味を覚え、何時しかその虜になってしまいました。
このことは、鳥が主役となる新しいシリーズの誕生を意味しています。魚シリーズでは登場する鳥はもっぱら烏でありましたが、鳥がアホウドリに取って代わっただけではなく主役も代わったシリーズものとなりました。
長谷川先生もそうだったように私も少年の頃より鳥好きでした。十姉妹やカナリヤなどを飼うことはもとより野山のヒバリやホオジロなども捕まえて飼おうとしていたことが記憶に残っています。
長谷川先生のように鳥が好きで、アホウドリの保護研究に一生を捧げたといっても過言ではない、そんな生き方ができた人と出会えたことが好運だと思っています。
この出会いを演出してくれたのは、近所に住む幼馴染で少年の頃から鳩が恋人で現在も鳩を飼い続け日本鳩レース協会の役員もしている倉神肇氏のお陰でした。同協会ルートから山階鳥類研究所に通じていたことがこの講演を聞くきっかけになったのです。このことは今でも感謝を忘れません。
「アホウドリの詩」シリーズは10作品展示していますが、いずれも新構造展又は同東京展に出品した作品であります。作品ごとに副題を決め、その年の時事も加味してそれぞれ制作しました。前シリーズの岩魚が宇宙に行ける魚としては最も近いストーリーで描いていると言及しましたが、アホウドリのそれも『地球の出、かぐやから』で月面から地球を眺める雄姿はいささか飛躍した描き方になっています。
『3.11、アルバトロス』では高波に発生する風をとりこみ、飛ぶスピードを倍加させるグライダーの原型モデル、ゴルフのアルバトロス、及び3.11の震災の津波のイメージも重ね合わせてみました。アホウドリの飛距離と速度等の能力を知れば月にだって行けそうな気がするのは私だけでしょうか。
長谷川先生の提案の引用ですが、アホウドリがツルよりも長生きで、オシドリよりも夫婦仲がよく、美しいこの鳥にふさわしい「オキノタユウ」と呼ぶことを提案していますが、私もこのシリーズで微力ながら描き続けることで支援したいと思います。
人のモデルの話ですが、幼少の頃の二人の息子が登場することが多くなっています。私の数少ない傑作のひとつで『蟻』があります。この作品誕生秘話を紹介します。岩魚が空を飛び始めた頃モデルをさせられるのを嫌がった息子たちが蟻をながめていた姿を描いたことから生まれた作品でした。
また、アホウドリの詩シリーズで妻が登場する作品は1点ありますが、その後の作品には本人もモデルになることは消極的であったため、セザンヌ夫人のようには登場する予定はありません。『みんな歌ってる』以後は鯨が歌を歌うことから魚に代わり、女性モデルは予算の関係で当面は石膏ヴィーナスに決めています。
最後になりましたが、私はアホウドリを実際には見たことがないのです。実物を知らないほうが想像しやすいと言う人もいますが、いとおしいアホウドリ「オキノタユウ」を一生に一度でいいから会える機会を神様にお願いしたいと思います。
また、私にとって今回の個展は、20有余年の作品群と対面し、そして回顧できたことは、過ぎ去った歳月が蘇るようです。油絵を描き続けてきた創造の喜びが走馬灯のように見え、準備段階から至福の時間を味わうことができました。
本展の開催にあたり、妻や息子たちをはじめ、準備からご尽力をいただきました木村昭司、石塚千春、石塚隆の3氏に深い謝意を表します。
〈画歴等〉
昭和29年岡部村(現深谷市)に生れる。
高校美術部(師塩原康正氏)で油絵始める。
第1回小林満夫個展 会期;昭和50年7月 会場;県立浦和図書館 大ホール
第2回小林満夫個展 会期;昭和62年9月 会場;県民ミニギャラリー熊谷
人・鳥・魚 №3小林満夫個展 会期;平成3年2月 会場;県立近代美術館 一般展示室3
高校美術部OB展(現ユウカリ展)創立会員(事務局)、平成27年8月には34回展開催予定、
会場は20年県立近代美術館一般展示室3又は4で開催。現在は深谷駅市民ギャラリーで開催。
埼玉県庁で文芸同好会巻潮元編集委員(師田中幸治氏)、絵画同好会白炎会会員、現在も事務局(師故中山峰三郎氏)、空手部元幹事(師梶山守氏等)それぞれ指導をうけ密かに文武両道をめざす。
前述の絵画の中山先生の紹介により新構造展(会員・審査員)及び大洋美術協会(執行委員・会計)に出品し、現在に至る。
勤労学生として慶應義塾大学通信教育部で学び、故八代修次教授(美学美術史学)の卒論指導を受ける。この頃埼玉県立近代美術館の職員としても大学に訪問していた。セザンヌ研究は継続中。
地域の岡部美術家協会会員(監事)。
埼玉県及び深谷市(旧岡部町)に各1点(F100号)収蔵作品がある。
№4 小林満風展 ー人・鳥・魚 共に生きるー 出品目録 | |||
2015.7.1~7.5 埼玉県立近代美術館一般展示室 2 | |||
№ | 題 名 | 制作年 | 規格(号) |
1 | 裸婦・鷗・林檎 | 1989 | P 50 |
2 | 蟻 | 1990 | P 20 |
3 | 飛べないワタリガラス | 1990 | S 50 |
「岩魚が空を飛んだ日」シリーズ | |||
4 | 岩魚が空を飛んだ日 | 1990 | F 25 |
5 | 〃 | 1990 | F100 |
6 | リコーダーの音を聞きながら | 1991 | F 30 |
7 | 岩魚が烏を襲った日 | 1991 | M120 |
8 | 岩魚の顔 | 1992 | F 25 |
9 | 岩魚の世界 | 1992 | F 25 |
10 | 岩魚物語 | 1993 | S100 |
11 | イワナ誕生 | 1994 | S100 |
12 | イワナの飛翔 | 1995 | S100 |
13 | 岩魚と地球 | 1996 | P 20 |
14 | 岩魚復活 | 1996 | S100 |
15 | 月に岩魚 | 1997 | F 60 |
16 | 岩魚と地球 | 1998 | S100 |
17 | 北へ帰ろう | 1999 | P 80 |
18 | 岩魚と地球 | 1999 | S100 |
19 | 〃 | 2000 | S100 |
20 | スペース岩魚 | 2001 | F 60 |
21 | 痩せても枯れても岩魚 | 2002 | S100 |
22 | 梅の樹に集う | 2003 | S100 |
23 | 人・鳥・魚 | 2004 | S100 |
24 | スペース | 2004 | S 80 |
25 | 水の惑星 | 2005 | F 50 |
26 | ランチュー宇宙へ逝く | 2005 | F 50 |
27 | 人・鳥・魚 | 2005 | S100 |
28 | 水の惑星 | 2006 | S100 |
「アホウドリの詩」シリーズ | |||
29 | 懺悔 | 2007 | S100 |
30 | 地球の出、かぐやから | 2008 | S100 |
31 | デコイ(Love) | 2009 | S100 |
32 | 再会 | 2010 | F 50 |
33 | 3.11、アルバトロス | 2011 | F 50 |
34 | オキノタユウと呼ぼう | 2012 | F150 |
35 | あゝ鳥島や | 2013 | S100 |
36 | アホウドリ、クジラそしてサチコ | 2014 | F100 |
37 | 卵 | 2014 | S100 |
38 | みんな歌ってる | 2015 | F100 |
ポスター原画等 | |||
39 | 今つたえます わたしの感動 | 1988 | F 20 |
40 | いま私 ちょっと 芸術家 | 1989 | F 20 |
41 | 輝く個性つたえます | 1990 | P 20 |
42 | ゆとりの時間(とき) きらめく個性 | 1991 | P 20 |
43 | この〃ときめき〃伝えたい | 1992 | P 20 |
44 | くつろぎの一時(ひととき) あなたの心に彩りを | 1993 | P 20 |
45 | 手(埼玉県庁空手部同志へ捧げる) | 1987 | P 50 |